書き手目線と読み手目線、2倍味わえる『小田嶋隆のコラムの切り口』

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書き手目線と読み手目線、2倍味わえる『小田嶋隆のコラムの切り口』

『小田嶋隆のコラムの切り口』を読みました。

体裁としては著者・小田嶋氏が各種媒体に向けて執筆し、結果としてお蔵入りしたコラムを再構築した「コラム集」になるのですが、特徴的なのが、随所で《いかなる視点からその題材を選び、どのように執筆したか》という書き手の意図が明らかにされている点。

書きたい人にとっては貴重な洞察やヒントを得られるし、読みたい人は小田嶋氏の表現力の豊かさと深い知識を直球で楽しめる。そんな魅力的な一冊でした。

目次

小田嶋隆のコラムの切り口|ミシマ社

こんなふうにも書けるのか!
 枠組みを決めて書く
 会話に逃げる
 分析を装い、本音をぶち込む
 オチをつける
 長文も短文も、かように
天才コラムニストの技がいかんなく詰まった傑作コラム集。
ブログ、SNSなどの執筆の参考にも…  爆笑必至です。  

ミシマ社説明文より引用

毒や鋭さを内包したコラムが魅力の小田嶋隆。そのコラムを、テーマではなく「切り口」別に再録した本です。各章ごとに短い説明が添えられ、執筆に用いられたテクニックが紹介されています。

「書き手の目線で、手法別にまとめられたコラム集」というのは一風変わった試み。ですが、書き手への指南書ではなく、あくまで読み物としての面白さが中心に据えられた構成でした。

書き手としてはコラムニスト・小田嶋のエッセンスを学べ、読み手としては独特な切り口のコラムを楽しめる。そんな本です。

書き手目線|随所に散りばめられた執筆のヒント

本書の章テーマは、小田嶋氏の以前の著作『小田嶋隆のコラム道』という書籍で紹介されたコラム作成法に基づいて設定されています。

「コラムの枠組み」「会話」「オチ」「裏を見る目」など、『コラム道』で書かれた紹介された執筆の極意7つを示し、それぞれ実例となるコラムを丸ごと掲載して技術や視点を紹介するスタイルです。

「私たちがこれまでに見たことのない、執筆者の意図や技巧を軸にしたコラム作成の秘密を解き明かす一冊を作り上げた」 

『小田嶋隆のコラムの切り口』p.3

と前書きに堂々と書かれている通り、実践的サブテキストとしても機能する面白い作りのコラム集でした。

特に、他の本ではあまりみないのが、コラムの「長さ」に留意されている点。各コラムの末尾には、合計何文字執筆したか文字数が記載されています。

全体の文量を示されたからなんだ、と思うかもしれませんが、「規定の文字数内で起承転結をまとめ、その上で個性を示す」というのは書き手としては最も頭を使う部分。熟練の書き手である小田嶋氏の、文字数に対するボリューム感や話題転換のタイミングは、文章の構成を考える上で大いに参考になります。

読み手目線|「小田嶋コラム」の深みとユーモアのバランス

逆に、ただの読み手としてコラムを味わっても十分楽しめるのが本書の魅力です。

小田嶋隆氏の文章の魅力の一つは、その独特のユーモアと深い洞察が見事に融合している点でしょう。その最良の例が、「読書の苦しみ」というコラムのエピソードです。

読書そのものが、実感として必ずしも苦しいのではない。むしろ、読書にしか慰安を見出せないような生活が苦しいということで、より実態に即した言い方をするなら、ある種の苦しみのさなかにいる人間は、読書に救いを求めることでしか生きていけないのである。

『小田嶋隆のコラムの切り口』p.13

現実の無気力感から救済されたいがために、読書に耽溺していった過去を振り返る内容は、ともすれば重くなりがちですが、小田嶋氏は「苦しみ」を軽妙に、しかし効果的に表現しています。

私が読書に耽溺したのは、溺れる者のしがみついた対象が藁であったという事情に近い。藁そのものに浮力があったのではない。というよりも、溺れている人間は、藁を正しく評価することができない。藁はわらじを作るための原料で、本来は歩き出すための契機であるはずだ。なのに、私はそれに浮力を期待し、あまつさえ食べようとした。当然、腹を壊したが。

『小田嶋隆のコラムの切り口』p.14

溺れるものは藁をも掴む、という慣用句から、実利を読書に求めた過去を自嘲的に振り返る文章の見事さ。面白いのに、身に覚えがありすぎて痛みすら感じる刺さり具合。

こんな秀逸なコラムを味わえるのも本書の魅力。
目次をめくって、テーマに心惹かれるものがあれば、読んで損はないでしょう。

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