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『AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか』というサブタイトルに惹かれて読み始めました。
ちょうど、画像生成AIやLLMを触り始めて、文字列のみで意図を伝える難しさ、日本語の曖昧さを実感として感じていたところ。「何かヒントを得られれば儲けものだな」くらいの気軽さで、あまりにも存在感抜群な、プロレス感満載の本書を手に取りました。ぱっと見では言語学に関係する書籍だとはとても思わないくらいのインパクトある表紙です。
いざ読んでみると「AIへの意図伝達」だけではなく、言語学に関連する面白いトピックスが満載の一冊。何気なく使っている言葉の不思議や曖昧さ、その面白みが軽快な筆致で描き出されていました。
「読むなよ、絶対に読むなよ!」
ラッシャー木村の「こんばんは」に、なぜファンはズッコケたのか。ユーミンの名曲を、なぜ「恋人はサンタクロース」と勘違いしてしまうのか。日常にある言語学の話題を、ユーモアあふれる巧みな文章で綴る。著者の新たな境地、抱腹絶倒必至!
東京大学出版会 作品説明より引用
印象的な『AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか』と言うサブタイトルは、本書に収載されたコラムの1つに由来しています。
「押すなよ!ぜったいに押すなよ!」は、言わずと知れたダチョウ倶楽部の鉄板ネタ。「押すな」とNOを伝えてはいるものの、そこに含まれる意図は「押せ」という前フリ。つまり、意味と意図が全く逆の発言です。こういった「意味と意図のズレ」を機械は理解できるのか?という点に着目し、掘り下げたのがこのコラムです。
川添先生は『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』『自動人形の城』といった、人工知能と自然言語処理に関わる書籍も執筆していますが、そちらの書籍でも人間の言葉の「意味と意図のズレ」は大きなトピックでした。
AIは「言葉が示す意味」に従い処理をするけれど、その裏に隠された「発言者の意図」は考慮しません。我々が普段使う言葉には、意識・無意識に関わらず、暗黙の意図が多数含まれています。AIへ何か指示をする場合、その「意図」を紐解き「具体的な行為」に落とし込まないと、想像した結果を得るのは難しいでしょう。
こういった、広く言語に関わる洞察が軽妙かつ楽しく読めるのが、本書の一番の魅力です。
さて、本書のサブタイトルでもあり目玉コラムである「AIへの意図伝達」ですが、実は本書の主題ではありません。
本書の真髄を一言で表すなら、言語学のエッセンスを中心にした面白コラム集。タイトルからも推察される通り、著者である川添先生は愛の溢れるプロレスファンです。プロレスネタを絡めながら言語学を語る独特な切り口で、「ネタはライトながらトピックスはガチ」な秀逸なコラムが次々に繰り出されます。
日常と言語学を巧みに結びつけた話運び。キレのある比喩表現。ディープな言語ネタ。
内容がいちいち面白く、つい笑いながら読み入ってしまいます。
タイトルの「バーリ・トゥード」は「何でもあり」という意味の格闘技ジャンル。様々な切り口から言語学トピックスを絡めて語られるコラムは、まさに『言語学バーリ・トゥード』の名に反しない内容でした。
本書に掲載されたコラムは、元々「UP」という東大の機関誌の連載されていたのだとか。こんなに面白い読み物が学内で定期刊行されているなんて、羨ましいと思わずにはいられません。
なお、タイトルと表紙イラストの通りプロレスネタが多く含まれているので、馴染みのない方は若干の「置いていかれ感」を覚えしまうかもしれません。私もそうでした。正直、もう少しプロレス要素が控えめだととっつきやすかったな、と思うのですが、そこから転じての言語学ネタは非常に興味深いので、どうにか乗り越えてくださいと思うばかりです。
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