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遅ればせながら、話題沸騰の「RRR」を観てきました。
様々な方の前評判通り、滅茶苦茶で熱くて最高の映画でしたね。
正直、時代背景も登場人物の過去も置かれている状況も重い。ナショナリズム的でもあり、かなりヘビーな題材の映画なのですが、インド映画お得意の「演出爆盛!ド派手アクション!神話や英雄のオマージュ!ダンス!目力!」がこれでもかと豪華にトッピングされており、とても爽快な後味になっていました。
例えるならば、「なじみも薄くクセのある食材で、非常に油っこく味も濃い料理だったけれど、秘伝のスパイスたっぷりで後味爽やか、めちゃくちゃ美味い!」みたいな作品です。
味に重厚感と奥行きを与えているのが、ラージャマウリ監督によって緻密に設計された「対比構造」と「リフレイン」。あまりにも鮮やかなお手並みだったので、今回はこの2点を中心に感想を書きたいと思います。
作品の舞台は1920年で、インド大反乱が鎮圧されて60年ほど経った時代。当時は大英帝国による厳格な支配体制により少数部族や宗教間の対立が煽られ、インドの国力は徹底的に削がれていました。
本作の主人公は、対照的な2人の男性。英国体制側に身を置く警官ラーマと、森で暮らす少数民族のビームです。
ビームは英国軍に連れ去られた同胞の少女を取り戻すため、総督府への突入を試みます。その捕縛の命令を受けたのが警官のラーマ。
2人は互いに素性を知らないままに友情を深め、やがて国の命運を左右する動乱を巻き起こしていきます。
敵と知らずに仲良くなる2人、驚愕と葛藤の対峙シーン、手を取り合って共に理不尽と戦う格好よさと、オタクの好きなものが全部詰まった作品です。
『RRR』の魅力は数え切れないほどありますが、作劇上もっとも注目すべき要素は徹底的なまでの「対比」と「リフレイン」でしょう。
特に印象的な対比構造は2人の主人公・ラーマとビームの人物像です。
彼らは対照的な性格・立場・目的を持ったキャラとして描かれており、場面の切り替わりとともに互いに影響し合い物語が進行することで、観客に鮮烈な印象を与えています。
ラーマ | ビーム |
---|---|
都市で生活 | 森で生活 |
「炎」がモチーフ | 「水」がモチーフ |
行動原理が社会的(国) | 行動原理が個人的(家族) |
馬に乗る | バイクに乗る |
”英国体制の狗” | “羊飼い” |
2人は対照的な要素を持っているけれど、決して真反対なわけではなく、根の部分はよく似ていることも繰り返し描かれています。
それが初めてわかるのが、序盤、2人で身を呈して子供を救うシーン。
物語冒頭では反乱する同胞を鎮圧し、ずっと険しい顔をしていたラーマが初めて笑うシーンでもあります。立場が違えどgインドの民を思う気持ちは同じであることがわかる重要なシーンです。
それまで冷徹な英国派のように描かれていたラーマがインドの旗を手に取り、ビームとともに子供を救う。対照的ながらも同じ目的のために動く2人が象徴的に描かれています。
このシーンの直後「RRR」のタイトルがバーンと登場するのも最高です。
もうひとつ忘れてはならない対比が、大英帝国とインドという国の描かれ方。
英国とインドは支配/被支配の構図が一貫して描かれています。圧政に苦しむインドの場面の直後、明るく華やかな英国側のシーンにパッと切り替わるなど、両者のコントラストは何度も強調されます。
象徴的なのは前半のクライマックス、インド総督府に突入しての大バトルでしょう。
それまで銃や車、柵、有刺鉄線で散々強調された支配者たる英国に対し、総督府へ突入したビームたちが、野生動物(映画冒頭で登場した虎や狼)を解き放って大暴れするシーン。
ビームが連れてきた動物たちは決して意のままに動く存在ではなく、虎はビーム自身にも牙を剥いて襲いかかります。それを受け流し、誘導し、共に戦う。それは一方的な支配ではなく、自然との共存そのものです。
(密林の王者である虎はインドにおいて特別な動物で、エンディングの歌詞で出てくる”雄牛”と同じく、勇猛な人物を指して使われる言葉でもあります)
この騒動の後、ビームを捕らえたことを悔やむラーマが「銃ではなく人の力で(インドの自由を取り戻す)」というセリフからも窺える通り、”「鉄と火薬の力」で覇権を握った英国に「自然と人の力」で抗うインド ”という構図が鮮明に描かれています。
極めつけは物語のラスト、英国側が貯蔵していた火薬を大爆発させ、英国の銃弾をお返しする形での総督府打倒。鮮やかな対比がカタルシスを産んでいます。
これらの対比構造と並ぶもう一つの要素が「リフレイン」。
本作で出てくる印象的なシーン・セリフ・モチーフは残らず再登場します。オタクにありがちな過言や誇大表現ではなく、本当に全てが、最高に熱い場面で出てきます。
細かいところでは柵と群集、有刺鉄線を挟んで歩く主人公2人、虎と対峙した時のビームの行動などが終盤の重要シーンでも再現されていますが、テーマにも関わる重要なものは、やはり「銃弾と命の価値」でしょう。
物語の冒頭では、森で暮らす少数民族のもとを訪れた英国領インド総督夫妻が、気に入った少女マッリの身柄を端金で騙し取ります。奪われる娘を取り返そうと追い縋る母親。冷酷に撃ち殺そうとする護衛。そこにインド総督は「英国で製造し、わざわざ運んできた銃弾をインド人に使うなど価値が釣り合わない」と告げます。そして、母親は落ちていた粗末な棒切れによって殴り倒される……
「英国製の銃弾1発よりもインド人の命は安い」
このフレーズが次に直接出てくるのはラーマの過去回想です。父親たちによる反乱の計画が漏れ、村が襲撃されるシーンで、英国軍の指揮官が同様のセリフを告げています。
そのほか、虐げられるインド国民の描写を通じ、映画全体で当時の英国から見たインド人の命の軽さが印象づけられています。
それらが反転する物語のラスト。火薬の爆発により妻を失い、地面に倒れるインド総督。そこにラーマとビーマが銃を突きつけ、銃弾一発の価値=インド人の命の価値を思い知らせる形で物語が収束します。
長々と語った通り、構成が素晴らしく、熱く、滅茶苦茶に面白い映画だった「RRR」。
しかし、輝かしい作品の内にも、暗い波がうねっていることも見過ごすことはできません。近年の社会情勢的な背景もあり、作中にはナショナリズムの危うさを感じる部分も見受けられました。
例えば、ラストシーンでビーマに引き金を弾かせるラーマの行動。これは過去、反乱軍だった父親の言動をなぞる構図となっています。過酷な状況であったとはいえ、幼い子供に銃をとらせ、人を殺させ、あげく英国軍を退けるために父親自身すら撃たせた言葉。森で暮らし、ただ同胞を助けるためだけに立ち上がったビームを、反乱戦争の旗下に引き込んだようにも感じられます。個人的には呪縛の連鎖にも見えてしまい、やや納得ができていません。
またエンドロールでは、インドの歴史における反英国活動の英雄たちが讃えられます。
これらの描写は国家主義や愛国心と結びつけられ、裏に潜む過激さや一面的な視点を指摘する声も聞こえてきます。
しかし、「RRR」は単純なナショナリズム讃美だけでなく、国も立場も異なる人間同士のつながりの可能性も描かれているのではないでしょうか。
敵対者として描かれる英国とインドですが、完全に相容れないものではありません。英国人のヒロイン・ジェニーは終始好意的で、最後まで手を取り合えました。パーティで出会った鼻持ちならないダンサー・ジェイクとも争いはしましたが、共にナートゥのリズムで砂煙をあげ、同じ目線で対等にやりあえています。
決して過去の恨み言に終始するわけでも、ナショナリズムを声高に叫んでいるだけでもない。エンタメとしての完成度が圧倒的な作品でした。未体験の方は、ぜひ劇場に足を運んでみてください。後悔しない作品なのは確かです。
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