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現代日本は「食」の宝庫です。最近は物価高騰の折から値上げも進んでいるけれど、わずかワンコインから、どこでも美味しいご飯が食べられる。
でも。
それって、せいぜい70点から90点の料理ですよね。
そう突きつけてくる作品が、異端のグルメ漫画『鍋に弾丸を受けながら』。
安全な国では安定して美味しい料理が食べられます。でも、危険なエリアで食べるご飯は【20点】 or 【5万点】。まずくて不衛生な料理もあれば、日本ではとても食べられないような超美味しいものに出会える可能性があるというのです。
例えば、アマゾナスのオレンジジュース。
例えば、ザンビアのアボカド。
この世界には未知の美味しい料理がたくさんある。それらを著者自身が探訪した経験を(なぜか美少女の姿で)紹介するのがこの漫画です。
『鍋に弾丸を受けながら』は、2021年に連載が始まった、新進気鋭の世界紀行グルメ漫画。「治安の悪い地域のメシは美味い」をテーマに、原作者本人が世界各国の「ガイドには決して乗らないご馳走」を食べ歩きます。
1話でいきなり登場する料理は「マフィアの拷問焼き」。
その調理シーンは、これから食事が始まるとはとても思えない処刑の解説から始まります。
このメキシコマフィアの処刑法になぞらえて作られるのが、牛肉を布で巻き、焚き火に放り込んで作る豪快な肉料理。
殺伐とした前置きから登場するのは、ステーキの赤みを思わせる繊細でジューシーな絶品肉です。
これを調理しているのはメキシコのサンマルコスという村で、マフィアの麻薬取引や抗争が勃発する危険地帯。
普通の日本人ならまず辿り着けないグルメ情報を下敷きにした漫画は、まず他の作品では味わえません。
先ほど紹介した通り、この漫画に登場する料理もエピソードも、基本的には原作者自身の実体験。
限界旅グルメに同行する人物たちは全員、屈強な男性であろうはずなのですが「主人公(作者)は二次元に脳が焼かれているので、自分を含めた全人類が美少女に見える」という超理論で登場キャラクターは全員美少女の姿で描かれています。
この天才の発想によって、治安の悪いゴリッゴリにハードな食事風景も、リゾート女子会のようなわきあいあいとした雰囲気に。『私(美少女・30代男性)』という字面の圧と引き換えに、画面の清涼感を獲得しています。
↓作中キャラクターは可愛い女の子だけれど……
現実では こう。
ほのぼの美少女(の皮を被った)辺境系グルメ漫画なので、本当に危険なシーンや犯罪は出てきません。ほんのちょっと、警察に職質されたり危ない現地情報が美少女の絵柄で語られるだけ。ちょっとしたスパイスのようなものは感じつつ、安心してグルメ漫画を楽しめます。
本作は、『食べ物に対するスタンスが<虎穴に入らずんば虎子を得ず> 』という他ではちょっと見ない漫画なだけあって、それ以外の要素はかなりグルメ漫画の王道に忠実に作られています。
例えば、クッキングパパなどでもお馴染みのレシピ解説コーナー。
日本でも手に入りやすい材料をベースに、実際に作って食べられる簡単な調理法が添えられています。
食材や文化の補足情報などもあって、コラムとして楽しいページです。
『鍋に弾丸を受けながら』を一言で言い表すなら、世界旅行記とご当地グルメを一度に味わえる、カツカレーみたいな存在の漫画なのではないでしょうか。
どちらか片方でも作品が成立するほどのパンチがあるのに、それらを惜しげも無くドッキングさせる姿には、静かな狂気すら感じます。
テレ東のグルメドキュメンタリー作品『ハイパーハードボイルドグルメリポート』なんかが近いジャンルかもしれません。どちらも唯一無二の存在感で競合する作品がなく、独特の魅力(異彩)を放つグルメ作品です。
『鍋に弾丸を受けながら』の最近の物語は、コロナによる海外渡航のハードルもあって国内・台湾など比較的身近な地域が舞台になっていますが、それでも「新興宗教ラーメン」「国家的偉人の縁者が案内するフルーツ農園」など、この人にしか書けないネタが詰まっていて、面白さが全く曇らないのがすごいです。
一風変わったグルメ漫画に興味のある方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
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