書き手の思考プロセスを垣間見れる本|『ライティングの哲学』

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書き手の思考プロセスを垣間見れる本|ライティングの哲学【書評・感想】

書きたい。書こう。書かなければ。でも書けない。どうしても真っ白なエディタを前にすると思考が固まってしまい、そこから進めなくなる。そもそもこの文章は世に出す価値があるのだろうか。

そんな苦しみは、書き手・創り手の誰しもが味わったことがあるでしょう。

本書『ライティングの哲学』は、著名な4人の書き手が「書く苦しみ」を乗り越えて原稿を書き上げるための執筆論を語り合った対談本です。

目次

ライティングの哲学-書けない悩みのための執筆論 |星海社新書

何かを書きたいと思いつめるがゆえの深刻な悩みが、あなたにもあるのではないでしょうか? 本書は「書く」ことを一生の仕事としながらも、しかしあなたと同じく「書けない」悩みを抱えた4人が、新たな執筆術を模索する軌跡を記録しています。どうすれば楽に書けるか、どうしたら最後まで書き終えられるか、具体的な執筆方法から書くことの本質までを縦横無尽に探求し、時に励まし合い、4人は「書けない病」を克服する手がかりを見つけ出します。さあ、あなたも書けない苦しみを4人と哲学し、分かち合い、新たなライティングの地平へと一緒に駆け出していきましょう!!

星海社新書説明文より抜粋

4人の文筆家による「執筆」トーク

本書の執筆陣は以下の4人(敬称略)。 人文の分野では有名な、錚々たる顔ぶれです。

執筆論を語り合う4人のメンバー:

こちらの方々が執筆時の思考やマネジメント論を語り合うのですが、「日常的に長文を執筆している」以外の共通点として、4人ともアウトラインエディタを愛用しているそうです。

執筆に関する話だけでなく、構成やアイデア整理に使うツールについての話も多く、非常に興味を惹かれました。

2つの座談会と、それに挟まれた「執筆実践篇」

本書の主題は以下の2点。

  • 書き手としての苦しみと試行錯誤
  • アウトラインツールを使った執筆術

4人の座談会は、次のような流れで展開されます。

  1. 「執筆術と悩みの共有」を主軸にした座談会1
  2. 座談会1の2年後に書いた「書き方の変化」についての記事公開
  3. 互いの記事を読み合いながらの座談会2

だいたいの執筆論系の本は各々の執筆ノウハウを公開して終了、となりがちなのですが、各々の執筆術を公開した後の変化や改善についても語られているのが特徴的です。

技法的な「こう書け」「これは書くな」「こういう心構えを持て」というhowtoを示す本が多い中、一風変わった構成なのではないでしょうか。

実際に読んでみて感じたことですが、新しい執筆手法を試す過程と、時間が経ってからの変化や改善をまとめて追えるのは有難いですね。

その時はいいと思っていたツールや書き方でも、数年経ってみると「やっぱ違ったな」と取りやめたり、より効率的な方法に移っていくことはよくあります。
そういった思考や振り返りを言語化してもらえると、自分の執筆活動にも活かしやすいです。

参考になったツールの使い方・執筆論

文章構造を整理するアウトラインエディタ

4人とも形はそれぞれですが、まず構造を組み立ててから書く、のスタイルは共通していました。この、「構成を組立てる」際に役立つのがアウトラインエディタ(アウトライナー/アウトラインプロセッサ)です。

アウトラインエディタとは、文章の骨格を素早く作れるツール。文章そのものを書きはじめる前に、話の展開を視覚的に組み立てるために使用されます。

アウトラインエディタの主な機能:

  • メモを入れ子にして階層構造をつくる
  • 細部を折りたたんだり、ドラッグ操作で階層ごと移動できる

DynalistWorkflowyといったサービスが有名で、Notionのリスト機能でも似た操作が可能です。

この記事を書くにあたって、私もDynalistを導入しましたが、メモ書き感覚で骨子を作れるので便利でした。たとえば、当記事のアウトラインの一部はこんな感じで書いています。

Dynalistで作成したブログ記事アウトライン

アイデアや書くべきことを思いついたままリスト化し、あとから整理・組み換えをして構成を作れるので、執筆の段階で迷うことが減りました。長い原稿など、行き当たりばったりでは難しい書き物をする際に効果を発揮してくれそうです。

本書で千葉さんは『アウトライナーは有限性の可視化』であると話していました。

何をどこまで書いて終わるべき文章なのか、全体のバランスを視覚的に把握できるため、迷走しづらいのかもしれません。

書くハードルを下げる工夫:いきなりwordを開かない

驚いたのが、日常的に執筆している方々でも「最初の書き出しに苦心する」ということでした。何万文字も書いて商業媒体で書籍を出版していても、私と同じような苦しみを味わっているというのには親近感が湧きます。

「書き出しイップス」には、コラムニストの小田嶋隆氏も以前読んだ本1で言及していました。

そもそも、白紙のエディタ画面はあまりに自由で広大すぎます。キーボードを叩き始めてしまえば流れで書けるのに、最初のフレーズが出てこず真っ白な画面で思考が止まってしまうことはザラにあります。

そんな抵抗感をいかに減らし、執筆の流れに乗せるか。
効果的なのが、先述のようなアウトラインをガイドにする方法です。

とはいえアウトラインもゼロから組み立てるのは大変なので、もう一段クッションを挟みます。そこで役に立つのが雑多なメモ。

日頃からなにかを思いついたときにスマホでメモを書きため、Evernote等に格納し、素材をストックしておきます。

いざ執筆する段階になったら、それらの素材を組み合わせてアウトラインを組立て、そこから書きはじめると、書き出しに足を取られることなく執筆と編集に集中できます。

書けるところをとにかく書く:フレームド・ノンストップ・ライティング

そのほか紹介されていた中で役立ちそうだと思ったのが、読書猿さんの「フレームド・ノンストップ・ライティング」です。

こちらは簡単にいえば、構成の大枠を考えた上で筆を止めずに書けるところをとにかく書く方法。はじめは整った文を書くことも、わからない事をその場で調べることも、プロットを全て回収することもすべて捨て、とにかく筆を進めることを優先します。

立ち止まってしまうから書けないのだ。というのが読書猿さんの意見で、この方法を使えばとにかく早く書けるようになるのだとか。

手順としては、まず細かなフレーム(アウトライン)を作り、そのフレームごとに書けることを殴り書いていきます。書ける部分から、順番もクオリティも気にせず、この時点ではとにかく枠を埋めること優先で。
ひととおり全体を埋めたあと、必要に応じて調べる・考える・構成を直すなどして足りない部分を補足し、完成です。

詳細は読書猿さんのブログでも紹介されているので、興味があればぜひ一読してみてください。

私は途中で調べものを始めたり、細かい表現が気になって筆が止まりがちなのですが、この方法だと普段よりも脇道に逸れにくいように感じました。勢いで執筆するのでスピードが上がるし、そのぶん後で文章を調える時間も確保できます。

早い段階で記事の原型が見えてくるので「白紙エディタの圧迫感」から逃れられる効能もありそうです。

質の高い情報系同人誌みたいな本かもしれない

本書では、書き手の苦しみと試行錯誤、そしてツールを活用した執筆論について、リアルな議論が展開されます。
定番のハウツー本と違い、思考プロセスにライトが当たっているので、読者側も得るものが大きい本なのではないでしょうか。

特に、数年スパンの執筆スタイルの変化がわかる点は、とても価値かあるように感じました。その時はいいと思ってたツールや書き方が、時間が経ってみて「やっぱ違ったな」と感じるのはありがちですからね。実際に迷い・試す過程が追えるのは有難いです。

ただ、書籍としては正直、粗い印象を受ける部分もいくつかあります。

座談会という建て付けなので、枝葉の話に展開し冗長な部分があったり、第二回座談会では、傷の舐め合いのような印象を受ける部分も(課題記事の執筆で当然のように〆切を延長した話とか)。

ですが、そういった部分を加味しても得られる情報の質は高く、書き手の感情や質感がダイレクトに感じられました。褒め言葉として「質の高い情報系同人誌」と評したい本です。


  1. 『小田嶋隆のコラムの切り口』ミシマ社  ↩︎
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